#文具は別腹 #文具は別腹特別編 #雑貨モノ知り #ステーショナリー
甘い物はいくらでも食べられるように、文具もいくらでも買ってしまう「文具は別腹」な方々。そんな皆さんの別腹を大いに刺激する文具コラム。ステーショナリー ディレクターとして色々な文具を見てきた私、土橋(つちはし)が、その使い心地も含めてご紹介していきます。(毎月第四金曜日配信)
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「かどまる」「ウカンムリクリップ」「メタシル」など、いくつもの個性的な文具を送り出しているサンスター文具。すごいハイペースで次々に新製品を出している印象がある。その商品企画の現場はどのようなものなのか。また「ウカンムリクリップ」や「メタシル」の開発秘話も色々とお聞きしてきた。
■ 2週間に1回行われているアイデア会議
お話をお聞かせいただいたのはサンスター文具 クリエイティブ本部 イノベーション部の人見さん(右)と大杉さん(左)のお二人。人見さんは「ウカンムリクリップ」を、大杉さんは「メタシル」を企画された方だ。
サンスター文具ではキャラクター文具を数多く手がけている。お二人が所属しているイノベーション部ではキャラクター以外の文具全般をカバーされている。そのイノベーション部の企画担当者は全員で5名。わずか5名であれだけの数の文具を次々に企画されているのかと驚いてしまった。というのもサンスター文具では、流通関係者向けの新製品カタログを毎月出している。つまり、毎月なんらかの新製品が出ている訳だ。それはつまり、開発期間が短いということでもある。「ウカンムリクリップ」も「メタシル」もわずか6ヶ月という短期間で商品化されたという。これはサンスター文具の中ではごく普通のことだそうだ。
では、その少数メンバーでどのように新製品を考え出しているのだろうか。イノベーション部では「アイデア会議」というものがある。2週間に1回というハイペースで行われている。各メンバーがそれぞれ3つ以上の商品アイデアを提出することがルールになっている。お二人とも毎回新しいアイデアを考えるのに四苦八苦しているという。提出されたメンバー全員のアイデアは毎回営業部、マーケティング部から選抜された13名で投票が行われ、4票以上勝ち取ったアイデアの中で好評だったものがプロジェクトとしてスタートしていく。
残念ながら採用されないで葬られてしまうものもある。というかその方が多いと言う。たとえばどんなものがあったのだろうか。
「AIを使って色々な人物の顔の写真を作り、それをふせんにするというのがありました」と大杉さん。なるほど今どきなアイデアだ。似ている人からクレームが来たらまずいということで不採用になった。
これは自信作というものよりも、そうでないものが票をたくさん集め商品化されることも多いそうだ。「もっちりパンふせん」がその一例。ふかふかとしたケースの中に美味しそうなパンがデザインされたふせんが入っている。
このハイペースのアイデア会議に向けて日々様々な分野からのインプットが欠かせないとお二人とも話されていた。
■ 大ヒットの「ウカンムリクリップ」
ロフトの店頭でも売り場に並んだ途端売り切れてしまうという人気ぶりの「ウカンムリクリップ」。クリップというジャンルでこれほどのヒットはかなり珍しいと思う。企画のきっかけはどのようなものだったのだろうか。「教科書をとめるクリップがとあるネットショップで常に上位にランキングされていたのを見て、これは需要があると確信したんです」と人見さん。そこから企画を考え始めたという。
企画当初のネーミングは「教科書クリップ」だった。教科書には分厚いものもある。それをちゃんと挟めるようにしないといけない。クリップ自体がフラットな作りだと大きく広げるにはつまみの部分を構造上長くしなくてはいけない。でもそれではクリップが必要以上に大きくなってしまう。
[右側の透明のものが当初のサンプル。つまみがフラットになっている]
人見さんは考えた。小さくても大きく広がるクリップはないものだろうか。そこで注目したのが女性が髪をとめるクリップだった。それはつまみのところがクルッと反った形状になっている。この反りがあることで小さくても大きく広げられる。これを参考にサンプルを作った。それを見た人見さんは「ウカンムリ」にそっくりだと感じ、このネーミングが生まれたという。
商品名を「ウカンムリクリップ」と教科書に限定しなかったことで勉強以外にも、たとえば手帳やレシピ本など様々な用途にも広がる結果となった。商品名を考えるときに心がけているのは、とにかくわかりやすく覚えやすいことだという。そうすれば検索されやすく口コミも広がりやすくなる。
そして大ヒットとなっていった。それを受けて12月には小さい「ウカンムリクリップ ぷち」も発売される予定というので、こちらも楽しみだ。
[サンスター文具 ウカンムリクリップ 各税込660円]
■ シリーズ累計200万本を売り上げている「メタシル」
削らずに書ける「メタシル」。こうした金属を芯に採用したメタルペンシルは以前にもあるにはあった。「メタシル」が新しかったのは消しゴムで消せることだ。そして、990円というリーズナブルなプライスであったことも大きかったと思う。
企画を担当した大杉さんにそのきっかけをお聞きした。
大杉さんは元々美術大学で鉛筆を手に日々デッサンを描いていた。デッサンで使う鉛筆は芯先を長く尖らせるものもあり、ナイフやカッターを使う必要があって面倒だった。加えて、描いていると手が黒く汚れてしまうのもストレスに感じていた。それらを解決できるものをと考えたのがきっかけだった。
ちなみに企画当初のネーミングはエターナル(永遠)ペンシルということで「エターシル」だった。「メタシル」の方が圧倒的にわかりやすいと思う。
さて、「メタシル」の芯には鉛筆と同じ黒鉛が使われている。それに金属が配合されている。詳しくは教えてもらえなかったが、ほとんどが黒鉛だという。ざっくりとした割合は9:1くらいだそうだ。その焼き固める温度や焼き方に秘密があるという。芯のメインが黒鉛ということで消しゴムでも気持ちよく消せるわけだ。
ちなみに使われている金属の種類は多岐に渡っている。たとえばということで教えていただいたのが、ニオブやモリブデンなど聞きなれないものだった。
一番初めに発売されたアルミ軸タイプを書かせてもらった。少し硬度が硬めの2Hくらいの書き味を私は感じた。筆跡もやや薄めだった。ただ、これまでの金属系ペンシルのような金属で書いているタッチは少なく、鉛筆っぽさがあった。書いても芯が減りづらいため、筆跡が鉛筆のように太くなりにくい。なのでシャープペンで書いている感覚に近い。
より濃く書けるタイプとしては「メタシルスクール」がある。こちらは竹の軸が使われている。鉛筆のような軽さがある。なるほど先ほどよりもわずかに濃く書いていける。HとHBの間のF(Firm)くらいの濃さ。こちらの「メタシルスクール」の方が個人的に好みの書き味だった。
これ以外にもノック式の「メタシルライトノック」、キャップのついた「メタシルポケット」、軸に噴石、牡蠣殻、卵殻、帆立殻を含んだプラスチックを使った環境に優しい「リ:メタシル」など色々なタイプが揃っている。
削らないでひたすら書けるが、それでも書き続けていくとだんだんと芯は減っていく。16kmも書けるという。濃く書ける「メタシルスクール」は筆記距離が短めの5kmとなっている。いずれも交換芯が別売りされている。鉛筆の芯を交換するというのはとても新鮮だ。
□メタシルシリーズの一覧はこちら
「ウカンムリクリップ」にしても「メタシル」にしても、クリップや鉛筆という文具カテゴリーでは以前からあったある意味定番的存在。そのジャンルを捉えつつ、これまでと同じものを作るのではなく、本の文字を隠しづらいであるとか、削らずにずっと書けるなど新しい価値を付け加えている。
サンスター文具は、ニッチな文具を作っていくという企画コンセプトを掲げている。確かにサンスター文具の商品を見渡してみると、そうしたニッチさに溢れたものばかりだ。それでいて痒いところに手が届く便利さが必ず備わっている。それは2週間に1回というハイペースのアイデア会議によるものなのだと、今回の文具社会科見学でつくづく感じた。
そして、今後販売されるものもとても楽しみだ。
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記事配信日:2024/08/23